VIVANT考察班

批評 / 作品論

VIVANTは国家主義的なのか
2つの読み方を並べる

解釈 2026.08.10 公開
この記事の扱いについて

これは作品の読み方についての記事であり、確度で判定できる種類の話ではありません。当サイトはどちらかの読みを正解として提示しません。両方の論拠を並べ、判断は読む人に委ねます。

第13話で、この作品の主題が一段はっきりしました。国家と個人の相克です。同時に、放送直後から作品の政治性を問う議論も出ています。

批判的な読み 国が個人に優先している

まず、この作品にナショナリズムを読む見方から。

この読みの論拠
  • 国が個人に優先する局面が、作中で繰り返し現れる
  • 第13話の尋問シーンでは、国家機密の重要性を根拠に、相手の精神を削る追及が正当化される
  • 日本を害する者は誅されてよく、国民は国のために犠牲を払うべきだというニュアンスが感じ取れる
  • 別班は法的な裏付けを持たない組織だが、作中では正義の側として描かれる

この読みの核心は、「非合法の暴力装置を英雄として描いている」という点にあります。別班は自衛隊直轄でありながら公認されていない組織です。存在自体が法の外側にある。その組織が、国家の名のもとに拷問し、暗殺し、そして視聴者はそれを応援する構造になっている。

第1シーズンで乃木は同期の山本を排除しました。任務としての殺害です。第13話では別人格のFに成り代わって新庄を追い詰めました。どちらも、目的が国益であることによって物語の中で許されています。

そこに旧軍の姓が重なる

この読みを補強する材料として持ち出されるのが、登場人物の命名です。

確認済み

主人公の姓である乃木は、明治期の陸軍大将・乃木希典と重なります。そして東条という姓は、太平洋戦争開戦時の首相であり陸軍大将だった東條英機と重なります。

そして乃木と東條だけではありません。当サイトで照合したところ、佐野忠義、宇佐美興屋、熊谷敬一、高田友助はいずれも実在した陸軍中将でした。作中の日本側の人物に、帝国陸軍の将官と同じ姓が集中しています。

決定的なのは偏りの方向です。テント側とバルカ側の人物には、軍人名が一つも与えられていません。ノコル、バトラカ、ピヨ、ゴビ、アリ、チンギス。日本側だけが旧軍の名を負っている。命名は陣営を示す記号として機能しています。詳しくは別記事で検証しました。

未確認の推測

SNSでは、東條がA級戦犯であることに配慮して表記を「東条」に変えたのではないか、という指摘も出ています。

事実であれば、興味深い意味を持ちます。制作側が旧軍の名を使うことのリスクを認識していた証拠になるからです。無自覚に置いた名ではなく、距離を測ったうえで置いた名だということになります。

ただし名前の使われ方は称揚ではない

当サイトの読み

ここで話が単純でなくなります。旧軍の名を与えられた人物は、作中で例外なく二つの顔を持っています。

野崎は別班を売り、東条は関与を疑われ、長野は正体を隠し、新庄はテントのモニターで、山本も同じでした。乃木自身も別人格を抱えています。

旧軍の名を並べることは、それだけ見れば国家主義的です。しかしその名を持つ者たちを全員うさんくさく描いているなら、命名の向きは賛美ではなく疑いを指しています。

反対の読み 国家の代償を描いている

一方で、この作品を国家主義の賛美とは読まない立場もあります。論拠は作中に複数あります。

1 テロ組織の側に理がある

確認済み

テントは、テロや犯罪行為を請け負って得た資金で、バルカ国内の孤児を救っていました。

そして指導者のノゴーン・ベキこと乃木卓は、公安部外事第1課の出身です。復讐の標的としたのは、内閣官房副長官であり元公安部外事課の上原でした。

敵役の動機が、国家に裏切られたことにあります。これは国家を無条件に肯定する物語の作りではありません。むしろ「国家は個人を平然と切り捨てる」という前提から出発しています。

2 主人公が幸福にならない

乃木は母を国家の争いで失い、父を自らの手で撃ち、第13話では兄のような存在も失いました。任務は成功し続けているのに、失うものが増え続けています。

国のために働くことが報われる物語であれば、この構造にはなりません。作品は国家への奉仕の代償を、主人公の孤独として積み上げています。

3 別班そのものが問い直されている

第2シーズンは別班員の拉致から始まり、第13話で公安の人間が別班を潰そうとしていたことが明かされました。

野崎の動機はまだ語られていません。しかし「別班という非合法組織は存在してよいのか」という問いが、物語の駆動力として置かれていることは確かです。これは作品が自分の描いてきた組織を疑っている構図です。

4 善悪の判定装置が単純ではない

ジャミーンは人の善悪を見抜きます。そして彼女が懐いたのは、テロ組織の指導者であるベキと、任務で人を殺してきた乃木でした。国家の側にいる人間が善だという判定を、作品は一度も出していません。

当サイトが面白いと思う点

ここからは読み方の提案です。

当サイトの読み

この作品でくり返し現れるのは、「国家の正史に記録されないもの」という主題です。

別班は公式には存在しません。テントは国家に消された男が作りました。そして乃木家がある奥出雲は、日本神話において中央に統合される前の別系統を担った土地です(詳細)。

旧軍の姓もまた、戦後の日本が正面から引き受けてこなかった記憶です。

作品が並べているのは、国家への賛美でも批判でもなく、正史からこぼれ落ちたものの系譜ではないか。別班も、テントも、出雲も、旧軍も、同じ棚に並んでいる。

この見方なら、ナショナリズムを読み取る人と読み取らない人が同じ作品から出てくる理由も説明できます。作品は判断を下していないからです。記録されないものを描くことと、それを称揚することは別です。

結論を出さないことについて

当サイトはこの問いに答えを出しません。理由は2つあります。

一つは、政治的な評価は事実の確度とは別の種類の判断であり、このサイトの方法で扱える範囲を超えるからです。

もう一つは、物語がまだ終わっていないからです。第13話は3話目にすぎません。野崎の動機が語られ、別班の存在意義が問われ、そして最終話で乃木が何を選ぶかによって、この作品が何を肯定したのかは変わります。

その答えが出たとき、この記事は書き直します。

配信情報

問題の場面を確認する

第13話の尋問シーン、そして第1シーズンでテントが孤児を救っていたと判明する場面。並べて見ると印象が変わります。第1シーズン全10話と第2シーズンはU-NEXTで見放題配信されています。

出典

  • リアルサウンド「『VIVANT』が描く"国を守る"物語の危うさ "野崎"阿部寛の裏切りは何を意味するのか」2026年8月9日
  • 日曜劇場『VIVANT』第1シーズン・第2シーズン第11話〜第13話の放送内容
  • 乃木希典・東條英機についての記述は、一般に共有されている経歴に基づく
  • 表記変更に関する指摘は、SNS上で共有されていた論点を再構成したもの。当サイトでは確認していないため未検証として扱う