第13話 / 反対仮説
野崎守はまだ裏切っていない
潜入説を支える4つの根拠
第13話は野崎守を首謀者として名指ししました。ただし作品は、野崎の口から一言も説明させていません。この空白に、放送直後から一つの読みが集まっています。野崎は敵組織に潜入しているだけで、まだ裏切っていない。
願望として片づけるには、根拠が揃いすぎています。順に見ます。
1 尺が余りすぎている
第2シーズンは2クール連続放送で、第13話はまだ3話目です。全体では20話前後になる見込みで、残りは7話以上あります。
ここで最大の敵の正体が確定してしまうと、残りの尺で描くものがなくなります。逆に、この裏切りが偽装であれば、真の黒幕へ向かう長い道のりの入口になります。
これは作品内の描写ではなく構成論ですが、軽い根拠ではありません。第1シーズンで、ベキが乃木の父だと明かされたのは物語の後半でした。この作品は最大のカードを序盤で切りません。
2 リュウ・ミンシュエンという空白
第1シーズン第7話で、野崎には「リュウ・ミンシュエン」という可愛がっていた後輩がいたことが語られました。乃木を見て「似てるんだ。俺が可愛がっていた後輩にな」と話す場面です。
この人物は本人の姿も演じる俳優も明かされず、回想も描かれていません。名前だけが存在し、最終話で乃木の真意を伝えるサインとして使われました。
野崎には「誰も死なせない」という信念があり、その背景に後輩を失った経験がありました。作品はこの人物を、姿を見せないまま3年間保留してきたわけです。
リュウを死なせた相手への報復として、野崎が単独で敵組織に潜っている。この筋なら、動機も、乃木にすら明かせない理由も、同時に説明が付きます。
そして未使用のまま置かれた設定が、ここで初めて機能します。作品が3年間温めていたカードが、野崎の裏切りと同じタイミングで意味を持つ。これは偶然にしては都合が良すぎます。
3 野崎自身が語っていない
第13話で明かされたのは「首謀者が野崎だった」という事実だけです。動機も、経緯も、本人の弁明も、何一つ描かれていません。
裏切りを確定させたい回なら、ここで野崎に何か言わせるのが自然です。冷たい一言でも、嘲笑でもいい。それがないということは、作品はまだ野崎の立場を確定させたくないと読めます。
4 ジャミーンの反応は「敵味方」を見ていない
ここは自己反論になります。別の記事で、ジャミーンが野崎に懐かなかった伏線が回収されたと書きました。しかし、この読みには穴があります。
ジャミーンが見抜くのは善悪であって、敵か味方かではありません。この2つは別物です。
潜入のために人を欺き、必要なら手を汚す覚悟を抱えた人間は、目的が正しくても「善」ではありません。ジャミーンが感じ取ったのがその覚悟だったなら、野崎が味方であることと、ジャミーンが懐かなかったことは両立します。
そもそもこの作品では、任務で同僚を撃った乃木も、外国の組織のスパイであるドラムも、単純な善ではありません。ジャミーンの基準を「味方判定装置」として使うのは、こちらの読み違いだった可能性があります。
放送後、この論点をもう一段ひっくり返す指摘が出ています。ジャミーンが懐いたのは、ノゴーン・ベキと乃木憂助でした。どちらも人を殺している人物です。
ならばジャミーンの反応は「善悪」ですらなく、もっと別のもの、たとえば覚悟や業のようなものを見ているのかもしれません。そしてジャミーンが野崎に懐かなかったということは、野崎はまだ誰も殺していないと読むこともできます。
この読みが正しければ、結論は反転します。野崎は手を汚していない。つまり裏切ってもいない。
この説の弱点
公平を期すために書いておきます。潜入説の最大の問題は、視聴者が望む結論と一致しすぎていることです。3年かけて信頼を積んだ人物が敵だったと認めたくない、その気持ちがこの説を支えている面は否定できません。
また作品が「最大の裏切り者」という強い言葉を使った以上、それを軽く覆すと言葉のほうが安くなります。覆すなら相応の代償、たとえば野崎の死のような形が伴うはずです。
現時点の判定
裏切りの事実は確定、動機は完全な空白。この状態で潜入説は否定も肯定もできません。ただし4つの根拠のうち、リュウ・ミンシュエンの保留だけは作品内の具体的な事実です。ここが動いたとき、答えが出ます。
第14話以降、リュウの名前が再び出てくるかどうか。それが最初の分岐点になります。
配信情報
第1シーズン第7話を見返す
リュウ・ミンシュエンの名前が出るのは第1シーズン第7話です。今こそ見返す価値があります。第1シーズン全10話と第2シーズンはU-NEXTで見放題配信されています。
出典
- 日曜劇場『VIVANT』第1シーズン第7話・第2シーズン第13話の放送内容
- MANTANWEB「VIVANT:野崎の後輩"リュウ・ミンシュエン"」2023年8月
- リアルサウンド「『VIVANT』が描く"国を守る"物語の危うさ」2026年8月9日
- 放送直後にSNS上で共有されていた論点を、個別の投稿を転載せず再構成した