名前の考察 / 帝国陸軍
VIVANTの登場人物の名前は
帝国陸軍の軍人が由来である
結論から書きます。『VIVANT』の日本側の登場人物には、帝国陸軍の将官と同じ姓が集中して配置されています。偶然ではありません。そして、この命名には作品の主題そのものが仕込まれています。
実在の陸軍軍人と照合する
当サイトで確認できた範囲を先に示します。いずれも実在した帝国陸軍の軍人です。
| 作中の姓 | 実在の軍人 | 階級と経歴 |
|---|---|---|
| 乃木 | 乃木希典 | 陸軍大将。日露戦争の旅順攻略を指揮。明治天皇に殉死し、乃木神社に祀られる |
| 東条 | 東條英機 | 陸軍大将。太平洋戦争開戦時の内閣総理大臣 |
| 東条 | 東條英教 | 陸軍中将。英機の父。陸軍大学校の第1期首席 |
| 佐野 | 佐野忠義 | 陸軍中将。第38師団長として香港攻略などを歴戦し、第34軍司令官を経て戦病死 |
| 宇佐美 | 宇佐美興屋 | 陸軍中将。騎兵科。侍従武官長を務めた |
| 熊谷 | 熊谷敬一 | 陸軍中将 |
| 高田 | 高田友助 | 陸軍中将 |
ここに挙げた7名は、公的な資料で経歴を追える人物です。作中の主要人物の姓が、これだけ帝国陸軍の将官と重なっている。SNSではさらに野崎、鈴木、和田、櫻井、黒須、太田、新庄なども同様だと指摘されており、一覧が拡散しています。
先に反論を潰しておく
この説には決まった反論があります。「鈴木や高田はありふれた姓だから、探せば必ず軍人が見つかる」というものです。
正しい指摘です。実際、帝国陸軍の中将だけで900人を超える規模が存在しました。ありふれた姓なら、同姓の将官が一人はいて当然です。
しかし、この反論は説の中心には届きません。理由は2つあります。
一つは、乃木と東條が動かないこと。この2つは日本陸軍を象徴する固有名詞であり、「たまたま同姓の軍人がいた」で説明できる水準にありません。主人公の姓が乃木である時点で、作品は旗色を示しています。
もう一つは、偏りの方向です。次の節で扱いますが、軍人名が置かれているのは日本側だけです。ありふれた姓が偶然一致するだけなら、この偏りは生じません。
決定的なのは「敵側に軍人名がない」こと
ここが当サイトの中心的な指摘です。
テント側およびバルカ共和国側の人物名を並べます。ノゴーン・ベキ、ノコル、バトラカ、ピヨ、ゴビ、アリ、チンギス、アル=ザイール、アディエル。
そして日本側は、乃木、野崎、東条、佐野、櫻井、黒須、長野、新庄、高田、和田、熊谷、廣瀬、宇佐美、太田、山本。
作品はバルカに架空の文化と架空の言語圏を用意しました。その気になれば、日本側の名も自由に作れたはずです。にもかかわらず、日本側にだけ帝国陸軍の名が集中している。
つまり命名は陣営を示す記号として機能しています。日本という国家の側に立つ人物には、旧軍の名が与えられる。ここに意図がないとは考えられません。
考察1 別班は旧軍から切れていない
別班は自衛隊直轄の非公認組織です。作品はこの組織を、戦後に突然生まれたものとしては描いていません。
日本側の人物に帝国陸軍の名を与えるということは、別班の系譜が旧軍まで遡ることの表明です。組織の名前も、任務の性質も、法の外側にあるという立場も、戦前から連続している。名前がその連続性を担保しています。
第2シーズンで別班の司令室が置かれているのが、防衛省地下の旧大本営地下壕であることも、この読みと噛み合います。物理的にも、彼らは旧軍が使った場所の下にいます。
考察2 乃木希典は「息子を差し出した将軍」だった
主人公の姓が乃木であることの意味は、単なる象徴に留まりません。
乃木希典は日露戦争の旅順攻略を指揮し、その戦いで自身の2人の息子を失っています。そして明治天皇の崩御に際して殉死しました。
国のために自分の血縁を差し出した将軍。これが乃木希典という名の含意です。
そして乃木憂助は、国のために実の父を撃ちました。方向は逆ですが、行為の中身は同じです。国家への忠誠と、家族の犠牲。作品はこの名を主人公に与えることで、彼の運命を最初から予告していたことになります。
さらに言えば、乃木希典は殉死しています。乃木という姓は、最後に自ら死を選ぶ人物の名です。第2シーズンの結末を考えるうえで、この含意は無視できません。
考察3 東条という姓の置き方
東條英機は極東国際軍事裁判でA級戦犯として処刑された人物です。日本陸軍を象徴すると同時に、戦後日本が正面から扱いにくい名でもあります。
SNSでは、作中の表記が「東條」ではなく「東条」であることについて、配慮の結果ではないかという指摘が出ています。
事実であれば重要です。制作側が、旧軍の名を使うことのリスクを認識していた証拠になるからです。無自覚に置いた名ではなく、リスクを計算したうえで置いた名だということになります。
そして東条翔太は、本性を隠しているのではないかと疑われ続けている人物です。部屋の飾りがウルトラマンからタイガーマスクへ、つまり素顔を隠すヒーローへと変えられている(詳細)。
戦後の日本が旧軍の記憶を覆い隠してきたことの寓意として読むなら、この配置は的確です。
考察4 旧軍の名を持つ者は、次々に裏切る
ここが最も重要な指摘です。この命名は、旧軍を英雄視するためのものではありません。
帝国陸軍の名を与えられた人物たちが、作中で何をしているかを並べてください。
- 野崎 第13話で別班拉致事件の首謀者と判明
- 東条 ベキを「ベキ様」と呼び、関与が疑われている
- 長野 丸菱商事専務の顔の裏に別班員の顔を持っていた
- 新庄 公安の刑事でありながらテントの最上位モニターだった
- 山本 乃木の同期でありながらモニターで、排除された
- 乃木 商社マンと別班員、そして別人格「F」
旧軍の名を持つ者は、例外なく二つの顔を持っています。
これはNの法則で扱った構造と重なります。頭文字Nの人物が全員二重の立場にあるという指摘がありましたが、範囲を旧軍の名に広げても同じことが起きている。
つまり作品は、旧軍の名を「表と裏を持つ者」の記号として使っています。称揚ではありません。
考察5 国家に忠実な者ほど裏切る
考察4を一段進めます。裏切っている人物は、いずれも国家の側の人間です。公安であり、別班であり、商社の役員です。
一方、テント側の人物には裏切りがほとんどありません。ゴビが例外ですが、彼が裏切ったのは組織であって国家ではない。
作品の構図はこうです。帝国陸軍の名を持つ日本側の人物だけが、二枚舌で動いている。
この読みは、作品にナショナリズムを見る議論と正面からぶつかります。旧軍の名を並べることは一見すると国家主義的ですが、その名を持つ者たちを全員うさんくさく描いているなら、意味は反転します。
この論点は別記事で詳しく扱いました。
整理すると
| 論点 | 判定 |
|---|---|
| 乃木・東條が帝国陸軍の象徴である | 確定 |
| 佐野・宇佐美・熊谷・高田も実在の陸軍中将 | 確定 |
| 軍人名は日本側にのみ集中している | 確定 |
| 命名は別班と旧軍の連続性を示している | 有力 |
| 乃木という姓が主人公の運命を予告している | 有力 |
| 旧軍の名を持つ者は全員が二つの顔を持つ | 有力 |
命名は仕掛けです。そして仕掛けの向きは、国家への賛美ではなく国家の側にいる者への疑いを指しています。
配信情報
名前を意識して見返す
名前の配置を頭に入れてから見返すと、誰が国家の側に置かれているかが見えてきます。第1シーズン全10話と第2シーズンはU-NEXTで見放題配信されています。
出典
- 佐野忠義・宇佐美興屋の経歴はWikipediaおよび防衛省防衛研究所の資料による
- 熊谷敬一・高田友助は陸軍士官学校卒業生一覧の中将の項に記載
- 乃木希典・東條英機・東條英教の経歴は、一般に共有されている記録に基づく
- 野崎・鈴木・和田・櫻井・黒須・太田・新庄などの一致については、SNS上で共有されていた指摘であり、当サイトでは個別に確認していない
- 作中の表記変更に関する指摘は未検証として扱う